タンピョンチェ(탕평채)

タンピョンチェ(蕩平菜:탕평채)はチョンポムッ(청포묵)という、緑豆澱粉を煮固めて作った葛切り状の食品を中心に、細切りにした色とりどりの野菜や肉の具を加えて和えた、宮中料理の流れを汲む上品なおかずです。

メインとなるチョンポムッは韓国独特の食べもので、伝統的な製法では荒く砕いた緑豆を水につけて皮をとり除き、臼で曳くかミキサーにかけたものをしばらく置いて、沈殿した澱粉をとって水を加え加熱しながら練り上げる、という大変手間のかかる工程を経て作られます。このような伝統的な方法で一から手作りしたものが美味しいことは言うまでもありませんが、もう少し手軽に作るには、製粉されたチョンポムッカル(청포묵가루:チョンポムッの粉)の市販品を使うと、水を加えて火にかけながら練り上げるだけで作ることができます。さらに、完全にできあがった豆腐状のパック商品も出回るようになりました。しかし、どの場合もチョンポムッは冷蔵庫で日がたつと独特の食感が失われ固くなってしまうため、そのときはさっと茹でなおして使います。

次に具ですが、芹、にんじん、きゅうり、赤ピーマン、もやしなどの野菜と、牛肉を甘辛く炒めたもの、椎茸、錦糸卵、海苔などがよく使われます。どの具も細長く切りそろえて、それぞれ別々に下味をつけて炒めたり茹でたりしておきます。

チョンポムッと具が用意できたら、食べる直前に和えて盛りつけます。盛りつけや味つけには、いくつかのパターンがあります。

盛りつけは、すべての材料をボールなどに入れ調味料を加えて和えたものを盛りつけるのが従来のスタイルですが、最近では大皿の中央にチョンポムッを盛りその上に色とりどりの具をのせたり、千切りの具を冷やし中華のように放射状に並べたり、棒状に切ったチョンポムッを揃えて並べた上に具をのせるなど、さまざまな工夫が見られます。

味つけは、しょうゆをベースに酢、砂糖、すりごま、おろしにんにく、ごま油などを加えた薬味酢じょうゆをかけるのが一般的ですが、塩とごま油だけでシンプルに和えて白いチョンポムッの美しさを際立たせたり、粉芥子、酢、塩、砂糖、しょうゆ、ごま油などを混ぜ合わせた芥子だれをかけることもあります。唐辛子やコチュジャンは使わず、チョンポムッの白さを生かして上品に仕上げるのがこの料理の特徴といえます。

タンピョンチェ
タンピョンチェ
タンピョンチェ

最後に、タンピョンチェ(蕩平菜)にまつわるエピソードをひとつ。李氏朝鮮王朝第21代王、英祖ヨンジョの在位中(1724~1776)、機知と精力に長けた文官・宋寅明ソンインミョンが、党派間の論争対立が続く世を治めるために、党派にかかわらず穏健な人材を等しく登用する「蕩平策」を打ち出し、英祖の信任を得たといわれています。宋寅明が若いころ、通りを歩いていると蕩平菜タンピョンチェを売る声が聞こえてきました。その声を聞きながら、四色を混ぜて登用する不偏不党の蕩平事業を行うことを閃趙在三チョジェサムいた、という記述が『松南雑識』(19世紀初頭、趙在三チョジェサム編纂)に見られます。

薬念研究所HP:キーワードで見る食文化2015年3月「タンピョンチェ」より転載